目次
東京都在住
naoさま
聞き手
コピーライター
平田けいこさん
全9回の連続講座、『思考と生活に変化をもたらすアート術』について、受講生の高野菜穂美(たかのなおみ)さんにお話をうかがいました。
聞き手は、アートのことはまったくわからないコピーライターの平田けいこが担当します。
「アートが思考と生活を変える」とはどういうことなのでしょうか?
平田さん:本日はお時間をいただきありがとうございます。高野さんはもともとアートに詳しかったのでしょうか?
高野様:まったく詳しくなかったです。でもなんとなく興味はあって、旅行先や外出先でたまたま美術館を見つけたときに足を運ぶことはありました。気に入った絵のポストカードを買ったこともあります。
平田さん:美術館に行ったことはあるのですね。
高野様:はい。とは言っても、1年に1回行くかどうかという程度です。しかも、どう鑑賞して何を感じたらいいのかわからず人目が気になり、わかったフリをしていたこともありました。
そんなときに娘の学校の宿題を手伝って美術史について調べたのですが、それが楽しくて。もっと知りたいと思ったものの、ついそのままにしていました。
そのタイミングで『思考と生活に変化をもたらすアート術』を知り、参加を決めました。
平田さん:アートの講座と聞いても正直ピンと来ないのですが、具体的にどんなことをやるのか興味があります。
高野様:たとえばある絵画を3分間鑑賞して、みんなで感想を出し合います。
平田さん:3分! けっこう長くないですか?
高野様:私も最初は長く感じました。1分経った頃にはもう何を観ていいのか困ってしまうくらい。でもだんだんと、3分では足りなくなります。
9回の講座が終わった後は『実践アートオンラインサロン』に参加するようになったのですが、10分でも短いと感じることもあります。
平田さん:そんなに変わるとは驚きです。でも、どんな意見を言えばいいのでしょうか。「この絵についてどう思いますか?」といきなり聞かれても、答えられる自信がありません。
高野様:最初のうちは、講師の智子さんが答えやすいようにリードしてくれるから大丈夫。たとえば「目についた色をメモしてください」など、やることを具体的に言ってくれます。
平田さん:それなら私にもできそうです!
高野様:どんな色が目についたかをみんなでシェアしたのですが、同じ絵画を前にしているのに答えはみんな違うのがおもしろかったです。
平田:発表のときは一人ずつ話すのですか?
高野さん:はい。基本的に講師の智子さんが話を振ってくれます。「これでいいのかな、ズレていないかな……」と不安に思いながら話していたのですが、第1回目の終了後に何ともいえない高揚感がありました。
平田:高揚感? アートの講座でそんな感情が出てくるとは意外です。
高野さん:理由を考えてみたら、話を聞いてもらえたことへの満足感だったんです。
結婚して以来、いつも家族を中心に考えていましたし、ママ友との話題は子供のこと。自分のことをこんなに話すことはありませんでした。
最初のうちは、感想を言うことにも抵抗もありました。なんだか、自分の趣味や嗜好がバレるような気がして。
でもほかの方の感想を聞くと、自分と全然違って興味深いんです。
たとえばカンディンスキーという画家の絵を見たとき、私は「明るい色づかいで弾むような感じ」と答えましたが、別の方は「血みたいで怖い」と、真逆の印象を持っていました。
だんだんと抵抗感より違う意見を聞くおもしろさのほうが上回ってきました。
毎回同じメンバーで安心感もありましたしね。
『思考と生活に変化をもたらすアート術』のいいところは、講師の智子さんが私たちの解釈を一切否定しないところ。時代背景や技法についての解説はしても、「正しい」鑑賞方法を教えたり私たちの意見にダメ出しをしたりすることはありません。
「人と違ってもいいんだ」と自信を持て、安心して自分の感じたことを自分の言葉で表現できます。
さらに日常生活でも、「自分はどう感じるか」を考えるようになりました。
家庭や職場だと気をつかったり空気を読んだりして、無意識のうちに周囲に合わせていることに気づいたんです。
平田:まさに講座名の通り「思考と生活に変化をもたらす」ですね。どんな変化があったかを教えてもらえますか?
高野さん:自分のために時間とお金を使えるようになりました。これまでは家族が最優先。ほしいものがあっても我慢し、行きたい場所があっても家事を理由にあきらめていました。
でも今は、自分が心地よいと感じる選択をするようになったんです。
子供のときは好き・嫌いがハッキリしていましたよね。作品の感想を言葉にしていくうちに、その感覚が呼び覚まされてきたからだと思います。
だから行きたい美術館があれば足を運びますし、ほしいと思ったものは罪悪感なく買います。
でも衝動買いや無駄遣いではなく、心と体が喜ぶかどうかを基準に直感的に行動できるようになったから、失敗することはあまりないです。
平田:アートをきっかけに毎日の過ごし方も変わるのですね。
高野さん:まさにそうです。時間をどう有意義に過ごそうかと、常にアンテナを張るようになりました。その結果、心地よい体験ができて心が満たされ、また心地よい選択をしようと思えてくる。そんな好循環が生まれています。
高野さん:美術館に行く頻度も格段に上がりました。受講前は年に1回行くかどうかでしたが、今は月に1回以上です。
夫と一緒に行くこともありますね。『思考と生活に変化をもたらすアート術』ではアートの歴史や技法についても学ぶので、「今日はこんなこと習ったよ」と夫に話すうちに、興味が出てきたみたいです。アート思考をビジネスに活かす方法を解説した書籍まで読んでいました。
平田:夫婦共通の趣味ができてうらやましいです。
高野さん:でも私がじっくり鑑賞するので、夫を待たせることが多くて(笑)。作品を前にすると自分の心が動くのがわかりますし、「あの技法が使われている」「あの時代の特徴が出ている」など講座で習った知識がバーっと頭によみがえってくるんです。
国立西洋美術館で、宗教画、肖像画、風景画、バルビゾン派、印象派と時代順に並んでいるのに気づいたときは「本当に習ったとおりだ!」と、感動すら覚えました。以前だったら、何も気づかず通り過ぎていたはずです。
平田:知識があれば美術館を楽しめそうな気がしてきました。
高野さん:知識がなくても美術館は楽しめますよ! あるに越したことはないですが、美術史をすべて頭に入れるのはほぼ不可能ですし、解説を全部読むのも大変。そもそも解説がない作品もあります。
『思考と生活に変化をもたらすアート術』で「自分はどう感じるか」を繰り返したおかげで、美術館の楽しみ方が広がりました。
滞在時間が以前より明らかに長くなっています。
気に入った作品があると、その前から立ち去るのが惜しいと感じるほどです。作品とは出会いは、人との出会いのようなものだと思います。
平田:美術館以外でアートに触れる機会はありますか? 仕事と家庭がお忙しい中、美術館に行く時間を確保するのも大変だと思います。
高野さん:アートの本や動画をよく見ています。特にお気に入りなのが、山田五郎さんのYouTubeチャンネル。作品を独特の視点で解説しています。
あとは講師の智子さんが主宰する『実践アートオンラインサロン』で、メンバーと一緒に鑑賞する機会があります。講座と同じく作品を見て感想を言い合うのですが、これはオンラインならではの楽しみ方。人と予定を合わせて美術館に行くのは大変ですし、館内でずっと話し続けるのも気が引けますから。家にいながら鑑賞ができて人の意見を聞けるのは貴重な機会です。
平田:気軽にアート談義ができる環境は楽しそうです。
高野さん:さらにオンライン鑑賞だと、拡大して絵の具の厚みなどの細かい部分も確認できます。これもオンラインの醍醐味ですね。
平田:アートの楽しみ方はたくさんあるんですね。一人で美術館に行くか画集を観るくらいしか、今まで思い浮かびませんでした。
平田:教材として扱う「アート」は具体的にどんな作品なのでしょうか? 絵画や彫刻のようなイメージがあります。
高野さん:もちろん絵画や彫刻も鑑賞しますが、庭がテーマだったこともあります。
平田:庭? 詳しく聞かせてください!
高野さん:日本と西洋の庭の対比がテーマだったことがあります。西洋では思い通りの形にするのが権力の象徴なので、人工的な左右対称が好まれ、噴水を下から上へどれだけ高く噴き上げられるかを競います。
一方、日本が重視するのは自然との共生。遠くの山や空も庭の一部ととらえて設計するのが特徴です。
この話を聞いて、「あっ!」と思うことがありました。
何年か前に京都の竜安寺の石庭に行ったとき、「石と塀と向こうの景色が一体になっている感じがする。なんだか落ち着く」とSNSに投稿したことがあるんです。
その理由がわかり、腑に落ちました。
実は今まで、西洋のほうがなんとなく素敵なイメージがありました。でも日本と西洋を対比することで日本の特性が浮き彫りになり、自分の中に日本人の感性が根づいていることに気づき、「日本人で良かった」と思えるようになりました。
モネの絵画に日本の影響が見られると、それだけで誇らしい気持ちになります。
一方、日本人による西洋画はあまり好みではないと感じることもあり、盲目的に「日本はすごい」とは思いません。
日本と西洋を、アートを通じて比較することで、各国にはそれぞれの良さがあると気づけました。
平田:確かに日本的なものを見ると、落ち着いたり懐かしさを感じたりすることがあります。その理由が、脈々と受け継がれてきたアートの歴史の中に隠されていたとは。日本史の授業では学べない視点だと思います。
平田:アートそのものの知識が増えて理解が深まるだけでなく、日常の生活にも変化が出る。さらに日本を誇らしく思う気持ちも芽生えてくる……。『思考と生活に変化をもたらすアート術』に対してこんな印象を受けました。
これからも世界が広がっていきそうですね。今後、アートを通じてやりたいことはありますか?
高野さん:講座で知り合った人たちに会いたいです! 仕事も家庭も関係なく本音を言えて内面を出せるのはここくらい。保護者会は何度やってもこんな雰囲気にはならないです。
私のこともよく理解してくれて、「高野さんはこれが好きそう」と映画や漫画をおすすめしてもらったこともあります。
普通に生活していたら、全国に知人が増えることはまずありません。
今まで全然なじみがなかった県も、「○○さんが住んでいる」と思うと一気に親しみがわき、ニュースなどで県名を聞くと反応するようになりました。その人に会うために旅行に行きたいと思うこともあります。
旅行といえば、フランスのオルセー美術館にも行きたいです。○○(一番観たい作品名を入れる)を観てみたい!
こう考えると、旅行先の選び方も以前と変わっていますね。観光スポットやグルメよりも、会いたい人や観たい作品が基準になっています。
平田:アートを通じて交友関係が広がるのは意外でした。旅の楽しみが増えたのもうらやましいです。いろんな意味で、思考と生活に変化をもたらす講座なんですね。
最後に、『思考と生活に変化をもたらすアート術』を検討中の方へメッセージをお願いします。
高野さん:アートを知らなくて恥ずかしい、なんて心配しなくて大丈夫。みんな最初は同じです。講座を受けるとアートに関心が高まって、自然と本や画集に手が伸びて知識は増えていきますし、知識がなくてもアートを楽しめるようになります。
最初は作品の感想を言うのに抵抗があるかもしれませんが、だんだん慣れてきます。
講師の智子さんは、なんでも安心して言える場づくりをしてくれる方。自分がズレていると不安になることなく、「人と違ってもいい」と思えるようになります。
アートに興味があるけれえど学び方がわからない方や視野を広げたい方にぜひお勧めしたいです。
平田:ありがとうございました。アートの講座といえば美術史を学んだり自分で創作するイメージでしたが、全然違いました。
知識を学ぶだけでなく、アートを切り口に他人の意見に耳を傾け、自分の思考の傾向や好みを知る。そして他者と自己の理解を深め、認め合う。
多様性が重んじられる今の時代に非常に重要なことが学べると感じました。受講生は30代以上の女性が中心だそうですが、男性や学生など、どんな方でも新しい学びが得られるのではないでしょうか。